水の間④
カチャッ
皆が画面の前に集まった所で、テレビらしき物の電源が入る。
映っているのは犬のお面を被った一人の人間だった。
そいつはゆっくり口を開く。
『皆様、【Conflict】へのご参加ありがとうございます』
仮面でよく分からないが、声的には女性
俺は早速、彼女に今の状況を聞くべく問い掛ける。
「おいっ、俺達を閉じ込めてどうするつもりだ。早くこっから出せ!」
『私、今ゲームの説明役を勤めさせて頂きます水楢纏(みずなら まとい)と申します。以後お見知りおきを』
そう言って軽快に頭を下げる水楢
まるで録画された映像であるかのように、俺達が何を言っても無視して着々と機械的に話を進めていく。
『では、まず天井にご注目下さい』
ゴーーッ!!
「おいっ、これ?」
「ちょっと……ヤダ」
水楢の言葉とともに、天井から出ているパイプから急に水が出てきた。
それが部屋の中に侵食していく。
『皆様にやってもらうゲームは生存率41%~水の間~賞金は1000万円です』
尚も喋り続ける水楢
説明を求めたいが、ここで尋ねても先程と同じで返事をしてくれるとは思えない。
隣では尚も隆也君が喚いているが、それを気にする余裕はない
。ここで何か喚いて結果が良い方向に転ぶなら俺も形振り構わず叫んでやるが、今は何かを掴むためにも彼女の話を真剣に聞くことが大事だ。
俺は少しも聞き逃さないように声に耳を傾ける。
こんな状況にも関わらず、自分でも驚くほど冷静だ。
金の取り立てで非日常に慣れていたのかもしれない。
『現在この部屋には毎分440㍑の水が入ってきており、また衛生上の問題などもあり毎分80㍑のペースで水が放出されております』
この部屋にあった何処にでもあるような排水口
これはそう言った意味合いがあったのか……
俺は水の流れを邪魔しないように排水口から距離をとる。
『またこの部屋は縦3㍍、横3㍍、高さ2㍍の体積18立方㍍の部屋となっております。単純計算この部屋は50分後に水で一杯になる計算です。』
そう言う間にもう水が放出し始めてから1分以上経過している。
さきほどまで騒がしくしていた隆也君も無駄だと悟り、今は生きるためかそれともただ疲れただけなのか……どちらか良くわからないが静かに話を聞いている。
『では次にここからの脱出方法をお伝えしようと思います。この部屋からの脱出方法は2つ――ゲーム開始時から60分をこの部屋で過ごすか、そこにあるコードについているプラグを部屋にあるコンセントにはめ込むかです』
60分――この部屋が50分で水で埋まるなら、水の中で過ごす時間は10分、いや水が部屋を埋め尽くす時にはすでに顔は水に埋もれてしまっているだろう。
つまり、コンセントにプラグを埋め込まない限り10分以上息
を止めないといけない……そんな道を選べば溺死するのは目に見えている。
となると選択肢はただ一つ。コンセントに剥き出しになったコードを差し込む他なさそうだ。
俺は早速、差し込もうとするが、コンセントを見て思い止まった。
コンセントはもう水に浸かっている。その上、プラグは剥き出し状態。
もしコンセントに差し込んだ瞬間、そのよプラグに電気が流れると水を伝い、俺たちに電流が流れる。こちらも感電死する可能性が高い。
純粋な水は電気を通さないが、空気に触れている時点でこの水が不純物を含んでいるのは明確だ。