水の間⑨
俺が脱出への道を必死に考えていた時、目についたのは水の排出口だった。
何処にでもあるような排水溝
これが重要だった。
『現在この部屋には毎分440㍑のペースで水が入ってきており、また衛生上の問題などもあり毎分80㍑のペースで水が放出されております』
これは始め水楢纏が口にしたこのゲームのルールの一文だ。
普通、水は圧力の関係から、流れ出る水の量はかさが増えるほど多くなる。
身近な例を挙げるとお風呂
水を流すとき最初は勢いよく流れていくが、ラスト数cmではゆったりと流れていく。
そして、その方則は今回のゲームでもこれは通用する。
機械じみた排水溝ならそうでもないだろうが、何処にでもあるような一般的な排水溝なのだ。
確かにあの水かさが少なかった時点では毎分80リットルの水しか流れていなかったかもしれない。
しかし、水かさが増えた今、理論上ではもっと水が流れ出るはずなのだ。
しかし、それは悪魔で理論上の話。実証しない限りは所詮ただの仮説に過ぎない。
俺はこの理論を証明するためにはどんな実験が必要なのかを考えた。
そして、思いついたものが、制限時間ギリギリでやり始めた一分を数える物。
あれは、本当は大体水が毎分何リットル流れるか調べる物だった。
この部屋の体積は縦3、横3、高さ2メートルの18立方メートル
もしこの部屋の水が毎分360リットルずつ増えるとするなら1分あたり水かさが4cm増すことになる。
俺は目測で水面から4cm高い所の壁に傷をつけ、そこから2人に数を数えるように言ったのだ。
結果、1分後にはまだその傷まで
1cmとちょっとぐらい余裕があった。
これは水が毎分8リットル以上流れてることを証明する物だったのだ。
つまり――
水がとまるかもしれない、電気が流れてないかもしれない。
この文句は一応合ってる物の、人を惑わす引っかけ
真実は水は止まらないし、電気は流れているだ。
つくづくこのゲームの主催者は人を馬鹿にしているように感じる。
2人は俺が説明する中、増えていく水に恐怖を感じながらも、納得したかのように胸を撫で下ろす。
途中痺れを切らして、隆也君の機嫌がまた悪くなったが、それももう終わり。
とうとうゲーム終了のお知らせがなった。
『桑田輝政様、田村アカリ様、金堂隆也様、ゲーム【Conflict】クリアです。それぞれこのゲームを申し込まれた場所に賞金1000万円を置いております。本当におめでとうございました』
一つの壁がスライドしながら開き、まず始めに溜まっていた水が外に流れていく。
開いた壁から外に出ると、またそこは新たな部屋。
しかし、その部屋にはきちんとドアが存在する。
俺を先頭にドアを開ける。
そこはもう喧騒とした街中だった。
水の間をクリアしたんだ