三日月⑥
神崎君の話の後、私は腕を震わせていた。
神崎君の話は予想通り彼の命に関すること…
でも根本的な所は大きく外れていた。
彼は臆病なだけだった。
何でも彼の病気は手術をすれば50%で助かる病気らしいのだが…彼は残りの50%に恐怖しているらしい。
このままほっとけば、どっちみち死んじゃう命。それなのに手術中の死が怖い?
ふざけるな!
せっかく生きる希望、生きる可能性があるのにその救いに手を伸ばさない。
元気に走ることができるのに前を向いて生きようとしない。
普通の人なら慰める所なのかもしれないが私は怒りに震えていた。
「手術受けたらいいじゃん。半分も確率あるんでしょ」
自然と冷たくなる言葉
神崎君はそれを聞いて怒り出した。
「はぁ!!半分しかないんだよ。半分『も』じゃねえんだよ。幸せそうに生きてる奴が分かったような口を利くな!!」
「フンッ、せっかく生きられる可能性があるのに、手術が怖い? そんな奴のことなんか分かりたくもないよ!!」
気づかぬ内に神崎君以上に熱くなっている私。
何が幸せそうに生きているだ。
明日が訪れることがないかもしれないから今を楽しんでんじゃない!!
「出ていけっ!!もうお前の顔なんて見たくない。もう来るな!!」
「分かった。もう来ないよ!!」
私は勢いよく立ち上がり、ドアを押し開けた。
そしてそのまま走って病室から遠ざかっていく。
しかし……
「!!」
病室がちょうど見えなくなった時、胸が急に苦しくなった。
ヤバい
熱くなりすぎた。
私は後悔するがもう遅い。
何かを叫んで駆け付けて来る看護師さんを見るのを最後に私の意識は刈り取られていった。
私が次に目が覚めたのは真っ白な病室の中だった。
ママの話によると、私は過度な運動で倒れたとのこと
ちょっと走っただけで過度の運動……これには思わず苦笑した。
また、これを機会に検査入院も決定したらしい。
今日はこのまま安静にしておき、明日から2日かけて検査
この頃、身体が酷くなる一方だったし、好都合と言えば好都合なのだが、やはり私の気は重かった。
そして翌日……検査が始まった。
一日がとても長く感じるような怠い検査
神崎君に会わなくて良かったものの私の身体は心身共に疲れていた。
――私は本当にあとどれくらい生きられるのだろうか……
診断結果が告げられる前日
私がいつものようにベッドに横になっていると担任と友利、そして……神崎君がやって来た。
私は驚愕すると共に担任を睨みつける。
――知られたくなかった。病気のことは誰にも知られたくなかったのに……
「恋歌大丈夫?」
私が俯いていると顔を覗くように友梨が尋ねてきた。
その結果、友梨の心配している顔が目にうつる。
とりあえず今まで黙ってたことを謝ろう。
そう考え、口を開こうとする。しかしそれよりも早く友梨が再び口を開いた。
「本当何もなくって良かったよ。先生から聞いた時ビックリしたんだから。突然倒れて念のため入院することになったって」
「……えっ?」
耳を疑った。
先生はきちんと言わないでくれたんだ。
「あっ…うん。心配かけてごめんね。もう大丈夫だから」
少し取り乱したのをごまかすように私は軽く握りしめたこぶしを友梨に見せ付ける。
友梨はそれだけで少し安心してくれたようだ。
ホッとため息をついている。
「じゃあ橋本さん。そろそろ帰ろうか。病院に長居は無用だよ。また来ればいいから」
それから暫く話していると担任が突然友梨に優しく話し掛けた。