三日月⑦
友梨は物足りなさそうな表情を示していたが、しばらくして首肯する。
私はこれ以上話すとボロが出そうだったので、こればかりは歓迎だ。
「じゃあ、またね。早く学校来なさいよ」
手を振り病室を出ていく友梨。
その後を追うような形で先生も「ゴメン」とだけ言葉を残し病室を後にする。
一体どんな意味であれを言ったのかは分からないが、まぁこれでともかくこの病室は私と神崎君の2人になったわけだ。
しかし、この前喧嘩別れした私にとってそれはなるべく避けたい状況だ。
「何? あなたは帰らないの? 私と会いたくなかったんでしょ」
今、彼は私のことを「ざまぁ見ろ」と嘲笑しているに違いない。
自分をバカにしたから私が倒れたんだ……と
そんな奴と一緒の部屋にいたいわけがない。
私は彼にきつく言い当たった。
「ごめん。俺手術受けることにしたよ。やっぱり生きるために前をむかないとな」
しかし返ってきた言葉は思いもよらぬ物だった。
神崎君は部屋についている大きな窓に歩み寄り、夕焼けに染まった空を見上げながら言葉を続ける。
「実はあの次の日……俺の元にあの担任が見舞いにやってきたんだ」
その一言で彼が何を言いたいのかなんとなくだが理解した。
私は俯いて、ただただ彼の言葉に耳を傾ける。
「で……その時俺はおまえに対する怒りが納まらなくてあいつに愚痴ってしまったんだ。あの時のこと」
やっぱり彼は知っている。
私の病気を……
「そしたら怒られたよ。『御堂さんはおまえ以上に【命】の大切さを知っている。おまえに彼女を怒る権利はない』ってな」
神崎君はそこで息をつき、再び喋り始める。
「その時はまるで言ってる意味が分からなかったよ。死にそうな目にあってる俺より元気そうなおまえの方が【命】の大切さを知ってるなんて有り得ないとも思った。でもその後、あいつからおまえの身体のことを聞かされ納得した」
神崎君がこちらを見ているのを感じる。
でも私は顔を上げることができない。
「本当ごめん。あの時のおまえの気持ちに気付けなくて」
そう言って頭を下げる神崎君。
気づけるわけない――私は神崎君の前では常に笑顔でいるようにしていた。
辛気臭い態度は私にとって本当に嫌なことだったから……
「とにかく今日は御堂に謝罪と報告をしに来たんだ。あいつに聞いた日にも行ったんだけど居なくて……遅くなって悪かった」
神崎君は再び頭を下げる。
「じゃあ、そろそろ病室に戻るから。長居して悪かったな」
その言葉を最後に遠ざかっていく足音
私は顔を上げると、彼の背中に「手術頑張ってね。」と言葉をかけていた。
君は生きられるんだから……