三日月13
そして私は苦し紛れに笑いながら頷いた。
「うん……本当だよ」
「馬鹿っ!! 何笑ってんのよ!!」
怒鳴り散らす友梨
私はただ黙ってそれを聞く。
「何でよ……この前病院で大丈夫って言ってたじゃん!? あれは嘘なの?」
「……ごめん」
「第一何でこんなになるまで言ってくれなかったのよ!? 気づかなかった私が馬鹿みたいじゃない!!」
私の親友はもの凄い力で私の肩を掴みながら、大粒の涙を落とす。
ザワザワとしていた教室はシーンと静まり返り、今度は私と友梨だけの世界が訪れる。
「何で……何で恋歌なのよ……?」
か細い様子で友梨は言葉を紡ぐ。
――もう駄目だ
晴れ渡る空とは対照的に私達2人は教室に雨を降らせていた。
理科室の件の後、私と皆の距離は広がった。
みんな優しく接してくれているのだが、やはりと言うべきか同情の目も目についた。
それが嫌で自ら距離をとってしまうのだ。
と言ってもそれは皆が皆ではない。
神崎君と友梨――その二人は同情せずに普通に接してくれる。
友梨には一時、私にひどく怒ってもいたが、すぐに許してくれ今では以前より仲良しだ。
私の夢をバカにしたことを謝りに来たことは戸惑いを覚えたが、「恋をしてもいいんだよ。」と言ってくれた時は本当に嬉しかった。
それに今では一歩踏み出せない私の変わりにママに頼み込んで、毎日2人で病院にも通っている。
そして、明日はとうとう神崎君の退院日だ。
「恋歌、いい? 明日きちんと彼に告白しなさいよ」
今日も病院に行き、その帰り道、友梨は握り拳を作りながら、私にそう言った。
「うん……でもやっぱり……」
「大丈夫!! 神崎君はきっと迷惑には思わない。大丈夫だから」
諭すように必死に私を勇気づけてくれる友梨
でもやはり乗り気にはなれない。
私だって出来れば好きな人といろいろなけとをしたい。
でも……死後相手の人の足枷になってしまわないだろうか……
自惚れかもしれないが、そう考えると、やはり告白は躊躇われた。
黙ってじっとしている私に対し、友梨はママに話しをふる。
「恋歌のお母さんもそう思いますよね?」
今まで病院に何も言わず、連れて来てくれていたママ
どう思っているのだろうか……
「そうね……私はその子と直接話したことがないから何も言えないけど、恋歌にはもう少し素直になって欲しいわね」
素直か……
ママはハンドルを手にとり、運転しながら言葉を続ける。
「自分の病気を知ってから恋歌が男の子の話しをすることがほとんどなくなったの。そんな中出来た好きな人。私はその恋を応援したいわ」
男の子の会話をしなくなった――そんなこと全く気づいていなかった。
さすが親というべきなのかな……
うつむく私に対し、友梨も話しに乗る。
「私も含めて、皆応援しているんだからさ……告白してみなよ。病は気から――もしかしたら付き合って楽しい刻(とき)を過ごすと病気も飛んでいっちゃうかもよ」
「それもそうね。恋歌、頑張りなさい!!」
二人して笑いながら私を励ます。
もしそれで病気が治ったらどれだけ嬉しいことか……
「分かった。告白してみるよ」
私は小さい声で2人にそう言う。
すると友梨は私の携帯を取り上げた。
「ちょっ……ちょっと、友梨!?」
友梨は私の携帯に何かを打ち込み、そのまま天高く上げる。