三日月④
トントンと担任がその扉をノックする。
すぐに「どうぞ」と不機嫌な声が扉の向こう側から返ってくる。
担任はそれを聞き病室へと入っていく。
私もノック2回ってトイレじゃなかったけと思いながらも続いて部屋に入った。
「失礼します」
何もない質素な部屋には一人の男の子がベッドに座っていた。
おまえは誰だと言わんばかりの鋭い視線が私に突き刺さる。
それを見兼ねた担任が私に助け舟を出した。
「えぇっと、こちらは君と同じクラスの御堂恋歌さん。少しそこで会って一緒に来たの」
私は目を神崎君から外さないまま頭を下げる。
神崎君は何も言わないものの頭を下げ返してくれた。
そしてその後、先生は淡々と学校の事を話し始めた。
私は病室の端でボーッとその様子を見る。
神崎君は全くと言っていいほど、その話を聞いている様子はなかった。
5分後、担任はもう話が終わったのか病室を出ていった。私も後に続き出ようとするが、そこであることに気づいた。
(よく考えたら私この病室に来た意味ないじゃん)
ドアノブにかけた手をはなし、神崎君に向き直る。
それに気付いた神崎君は私に目を向けた。
「どうした?帰らないのか?」
初めて話す割にきつい口調で聞いてくる神崎君
私は気にせず話しかけた。
「いやーー、このまま帰っちゃたら私来た意味ないじゃん。だから少しお話ししようかなって思って」
「…話?」
「うん、例えばお互いに嫌っている担任の話とかね」
「面白いな、おまえ。わざわざ嫌いな先生と一緒に見ず知らずの俺の見舞いにきたのかよ」
神崎君の冷めた顔が嘘のように笑顔がかわる。
「悪い? 仮にも担任なんだから嫌いでもある程度媚び売らないと…神崎君が極端過ぎるだけだよ。」
「ハハッ、確かにそうかも。でもやっぱり俺には出来ないわ」
「うん、その気持ち分かる。私も夢が無かったらあんな態度とってないよ。」
段々と体調が悪くなっていく私の体。
正直今の状態で夜遅くまで起きるような受験勉強ができると思わない。
だから少しでも確率を上げるために推薦を取らないといけない。
「夢?」
「あぁ、うん…私の夢は大学生になることなんだ。でもちょっと勉強がきつくてね……推薦を取ろうとしているわけ」
今私はこの夢に一応ながら誇りを感じている。
笑われること覚悟で私は堂々と自ら『夢』を神崎君に語った。