三日月⑤
「そうか…すげぇな。俺夢なんか無くてよー。羨ましいよ」
私は返ってきた言葉に驚き目を開く。
バカにされると思ってたのにそれを良い意味で裏切られだ。
「大学生だよ? 夢がないとか思わないの?」
「うん、別にいいんじゃね。夢が全く無いより大分良いじゃん。リアルに叶いそうな夢だしさー」
私の病を知らない人に初めて褒められた夢。
嬉しさが込み上げてくる私にもって彼と話したい――そんな気持ちが生じる。
が……そこで初めて病院に長居していることに気付いた。
病のこともあり、両親は私が帰ってくるのが遅いとすぐに心配する。
私は席を立った。
「ありがとね。もう帰らないといけないからじゃあね。また来て良いかな?」
「いいよ。何かおまえと話すの楽しいし。担任は勘弁だけど」
フフっと笑い私は今度こそ病室から出ていった。
パタンとユックリと閉じるドアとは対照に私の心は大きく踊っていた。
それからと云うもの私は週に2回のペースで病院に通っていた。
神崎君と喋りたい、その気持ちが私の体を動かしているのだ。
そして私は今日も学校を終えると病院に向かった。
月日は梅雨の時期に入っていた。
病室をコンコンとならし、私は神崎君に来たことを知らせる。
しかしいつもと違い返事がない。
いつもは「どうぞ」と言って笑って出迎えてくれるのに……
私は何かあったのでは無いかと思い扉を勝手にあける。
神崎君はベッドに座りただボーッとしていた。
「神崎君どうしたの?」
ホッと安心しながらも、こちらに全く気づかないことを不思議に感じ、私は神崎君に問い掛けた。
「あぁ、御堂か…わりぃ……気づかなかった」
死んだような目、それは神崎君に何かあったのを物語っていた。
「何があったの?」
心配になった私は尋ねる。でも神崎君はそっぽを向くだけで何も答えてくれなかった。
私は次の日も神崎君の病室に行った。元々今日は行く予定はなかったのだが何だか心配だったから。
病室に入ると今日も神崎はボーッと座っていた。
私は何も喋らず近くの椅子に座る。
そしてしばらく――
「なぁ御堂、おまえって死ってどう思う?」
今まで黙り込んでいた神崎君がこちらを向かずにポツリと呟いた。
私は思うがままに返事する。
「そりゃあ怖いよ。死なんていつ自分にやってくるかも分からない。あと1年で死ぬかもしれないし…はたまたもう数時間もしない内にやってくるかもしれない。そんなとこに私は恐怖を感じる」
なんとなくだが、神崎君が自分の死に直面していることが分かった。
同時に神崎君が不自然な理由もようやく理解する。
「ハハッ、本当すげぇな。まさか、そんな答えが返ってくるなんて思いもしてなかった」
神崎君は笑っている。
でも……
何故か私の目には泣いているように映った。
「神崎君の病気ひどいの?」
「いや俺は大丈夫だよ。あと一ヶ月もありゃあ、退院できるんじゃないかな。さっきの質問は忘れてくれ。」
――嘘だ。そんなわけない。
私は神崎君を睨みつけた。
「ねぇ…私たち友達だよね。辛い時は私を頼ってよ」
神崎君を睨め付ける私の目から涙がこぼれおちる。
自分と重ね合わせてしまうせいか、死に関することは私の心を大きく揺らす。
涙を流して聞き出すなんて最低だと思いながらも、すぐには止めることができなかった。
「おいっ、大丈夫か?」
そんな私に対して神崎君は優しく私の肩に手をかける。
心配してるつもりが逆に心配されている私
何でこうなっちゃったんだろうと思いながらも私は必死に涙を止めるよう努力した。
そしてしばらく
私の涙は何とか止まり、それを見た神崎君が口を開いた。
「分かった、話すよ。実はさ――」