水の間⑧
(59……60!!)
そして俺もついに60秒を数え終えた。
ボーダーラインまで残り2cmとちょっと
思った通り!
俺は予想通りの結果に頬を緩める。しかし、そんな時隆也君が俺の持っていたプラグを手から素早く抜き取ってきた。
「もういいだろ。時間がないんだ!」
「ちょっと待て!」
論証するのに時間がかかったため、説明する時間はほとんどないが、このゲームでの本当に正しい選択肢はただ待つこと
プラグを差し込めばかなりの高確率で電気が流れ、俺たちを感電死へと追い込む。
しかし隆也君はそんなこと知らない。俺の制止を気にもとめず、コンセントに差し込もうとしている隆也君。俺は急いで羽交い締めにして止める。
「何すんだよっ! 離せよ!!」
全身を使って、隆也君は暴れ回る。
肘でついて来たり、後ろ蹴りをかましてきたり……
体の半分以上が水に浸かっているのが幸いだ。水の抵抗のおかげで隆也君の攻撃にあまり力が入っていない。身体は痛いがこれくらいならば我慢しきれる。
ボーダーまであと1cmを切った。
このまま行けば勝ちは確定したも当然だ。
彼の年上としてのプライド。あと少し何としてでも押さえつけてやる。
まずは彼の気をそらさせる。
「やめるんだ。答えはプラグを差し込むことじゃないんだ」
ピタッ
狙い通りーー隆也君の動きが止まる。
驚きをあらわにした目にはこちらの双眸が映っていた。
「どういう事だ!?」
最初あったはずの敬語はもう存在しない。
命をかけたその状況はそれだけ彼を切羽詰まらせているのだろう。
「水は止まらないんだろ!?」
必死の形相で俺に問いかける隆也君。
「あぁ、止まらない。けれど――」
俺は簡単に説明するために拘束を緩める。
しかしそれはミスチョイスだった。止まらないと言った瞬間、隆也君はさらに形相を強め、俺の隙をつき、拘束を一気に振りほどいた。
しまった。
説明の順番を間違えた。自分の中ではもう結論が付いているため、落ち着いているが彼らはその限りではないのだ。
後悔するが、もう遅い。
隆也君はプラグを手に水面に潜り込む。
もう間に合わない。水の抵抗で彼を捕まえる手が遅い。
ーー駄目だ!
諦めかけたその時、待ちに待った終了を告げる声が部屋に響いた。
『制限時間をオーバーしました。以降、プラグを差し込んだとしても、正常に作動しません』
――間一髪
プラグとコンセントの位置が残り1cmと言う所だった。
あと一秒でも遅れれば結果は間逆になっただろう。
俺はほっと胸を撫で下ろす。
俺は勝ったんだ!